作品の完成タイミングっていつ?ゴールの決め方と道筋

音楽に限らず、作品制作のゴールに明確な基準はありません。
依頼された仕事ならともかく、自己表現や趣味、デモ音源といった自主制作の場合、完成のタイミングはとても迷うものです。
「好きなように作って完成でいい」という論にも納得ですが、世に出す楽曲を作る以上「聴いた人がどう思うか?」を完全に度外視できるほど、人の心は器用にできていません。

かく言う筆者も数年前まで少なくない頻度で客観性を失い、同じプロジェクトを長時間触ってしまう状態に陥っていました。

ここでは、作品が過不足なく完成と言い切れる判断方法をお伝えします。

結論:伝えたいことが伝わるようになったら完成

簡潔に述べると、創作表現とは、何か強烈に主張したいことを形にする行為です。
ですので、作品に込めたメッセージがオーディエンスの心にしっかり届く、あわよくば記憶に刻まれるような形になれば、そこが完成のタイミングということになります。

「伝えたいこと、主張したいこと」が何もない場合、本当に作品制作をすべきかどうか一考する必要があります。
このことについては別記事を設けようと思います。

完成までの精度向上、スピードアップのポイント

・常に「作品で伝えたいこと、主張したいこと」を軸に考えましょう。
作品の基本的な構造にせよ装飾的な部分ににせよ、これを意識しておけば過不足のない納得の完成を迎えられます。

・特別な意図がない部分は可能な限りベタにしましょう。
こうすることで、大事なメッセージが際立ち、正しく且つ、より多くの人に届きます。
ベタというと不誠実に聞こえますが、堅く言えば「歴史や伝統を考察、参照しましょう」ということです。
どういったものが「ベタ」なのかについては、古今東西、ジャンルによって違うので要研究です。

・制作期間中は、他人の作品や持論を遮断しましょう。
人間は自分と他人を比較する本能から逃れられません。
そして繰り返し最重要と述べている「作品を通して伝えたいこと」に対して作者自身が疑いを持った瞬間、一気に完成が遠のき下手をすればお蔵入りという残念な結果になりかねません。
悲劇を避けるために、特別に参考にしている楽曲以外は聴かないようにし、SNSも絶ちましょう。

・適切に休息を挟み、フラットな目線に戻しつつ判断しましょう。
人間の聴覚は思いの外いい加減で、いとも簡単に客観性を失います。
大きな判断をする前には必ず休憩を入れて、冷静さを取り戻してから確認しましょう。
休憩中、余計なことに心を奪われない休憩法が理想ですが、これから我流で確立するには相当の期間を要しますので、一度ポモドーロテクニックを試していただくのが非常におすすめです。

・他人に聴かせて判断する(フレンドテスト)時は、意見の貰い方に気をつけましょう。
音楽は人によって芸術でもあり娯楽、嗜好品でもあるので、「良い作品」の定義は人の数だけ存在します。
ただ漠然と感想を聞いて参考にしようとすると、お互い時間の浪費になる可能性が極めて高いです。

以下に、フレンドテストの最も効果的な手順を記しておきます。

  1. 誰かに聴いてもらう前に、作品の現状に対して思う良い部分、不満な部分、そして一番伝えたいことをメモに書き出しておきましょう。
  2. いざ聴いてもらう時は事前情報を一切言わないようにしましょう。直後の感想はあくまで人それぞれの好みの範疇と捉え、議論はせずただ感謝を述べましょう。
  3. 最初に書き出した、「作品の現状に対して思っている良い部分、不満な部分」を伝え、相手が感じたことと一致するか確認しましょう。
  4. 最後に作品を通して伝えたいこと」を提示した上で再度聴いてもらい、正しく認識されるか確認しましょう
  5. 結果を持ち帰り、必要に応じて修正を行いましょう

たとえ高名な音楽家同士であっても音楽に対する理念が100%一致することは絶対にありません。
だからこそ音楽家ひとりひとりに価値があり、その主張は曲げることなく作品で表現されるべきなのです。

作品完成までの具体的な思考の例

音楽を文章で説明するとどうしても理論の話が出てしまうので、絵画(油彩画)を例にとって考えてみます。

・作品を通して伝えたいことは「夕日に照らされた女性の肌の美しさ」に設定するとしましょう。

・そしてモデルを望み通りの照明(夕日)が当たる屋外に配置し、忠実にカンバスに描くことには
ひとまず成功したとします。

でははじめに、カンバスの余白部分について考えてみましょう。

・世の中の油彩画は概ねカンバス全体を何らかの色で埋めてある。余白を残す場合には、作品の本来のメッセージとは大きく乖離した、何か特別な意図を観客に感じさせてしまわないか?

・余白を一色で塗りつぶすという手もあるが、夕焼け色に染まった街並みを背景にした方が、モデルが置かれている状況(夕暮れ時、屋外であること)が観客に正しく伝わるのではないか?

以上の理由から、背景はきちんと描いておいた方がいいだろうと判断して、これまた目に映る背景を忠実に描き切ったとしましょう。

では次に、脚色について考えてみます

・背景を目に見えた通り描いた結果、「戦争反対!」の横断幕が画面に入っている。残しておいた場合、作品の主張に変化が起こってしまう恐れはないだろうか?

・女性の肌をより強調するために、見たままに忠実ではないが光沢を描き足すアイデアはどうか?

この辺りからは頭の中でのシミュレートだけでなく、実作業でのトライアンドエラーが必要になってきますね。
地道で時には苦痛を伴いますが、試行錯誤の末に結論が出せたなら、それは経験値となり次回作からは同様の実験を省略できます。

ではさらに作品の特異性を出すため、突飛なアイデアですが「カンバスの形をハート型に加工する」というアイデアについて考えてみましょう。

・カンバスの形は一般的には四角か丸なので、当然唯一性は高まるだろう。

・画面の構図は大きく変化する。その結果はこの作品にとってOKかNGか?

・ハート型を目立つ形で取り入れると、肖像画の女性は「ただのモデル」ではなく「作者と特別な関係の女性」と観客は解釈するのではないか?そのことによって本来伝えたかったメッセージが伝わらなくなる可能性はないだろうか?

ここまでの思考と作業の末、これ以上のアイデアや疑問は無くなったので、最後に確認として何人かの友人に見せることにしました。

・数人の友人に見せたうち一人から「背景は暗い色で塗り潰した方がいいのでは?」など、いくつか自分の考えと相違があったものの反応は上々。

・何より当初意図していた「夕日に照らされた女性の肌の美しさ」は皆にしっかり伝わったようだ。

祝・完成!!

極端な例になりましたが、コンスタントに制作ができる作家は概ねこのような道筋で作品制作を進めています。
制作の際に浮かぶアイデア、思考の論点および回答は作者ごと、作品ごとに千差万別とは思いますが
ぜひ一度、上記のプロセスをご自身の作品に当てはめて考えてみてください。

次のセクションは付録といたしまして、筆者が楽曲制作の際、高い頻度で考えていることをリストアップしておきます。

付録:ISD-MAXが録音作品を制作する際の主要な思考ポイント

作曲
・歌詞に頼らず、一聴して満足感のあるメロディになっているか?

・コード付けは適切か?メロディとの関係は良好か?ムダに複雑だったり、楽曲コンセプトに反して予定調和すぎるといった過不足はないか?

・楽曲構成は適切か?楽曲の聴かせどころを生かせる展開になっているか?

アレンジメント
・ステレオ空間と周波数レンジはセクションごとに適切な充実度になっているか?

・静と動のバランスはどうか?楽器及び奏法の役割を意識してタイムライン上に配置できているか?

・各トラックのフレージングはどうか?メロに対して強すぎ、コードの中に埋もれすぎといった過不足はないか?

ミキシング
・各トラックの役割に応じた音色と音量、定位になっているか?

・楽曲に合った距離感と立体感になっているか?

・空間系エフェクトの深さはどうするか?

・歪みをどのくらい取り入れるか?

おわりに

自己表現にしても、芸術の革新を志すにしても、歴史的な作品を顧みれば
「伝統一つの独創的または破壊的なアイデア、技術」で構成されていることがほとんどです。
先の見えない完璧主義は捨て、不動の志と適切なバランス感覚を持って制作に臨めば、暗い海を彷徨うことなく
作品は着実に素晴らしいゴールへと近づいてゆくはずです。

では
Have a nice journey!

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