音楽制作に関わったことのない、理論に詳しくない方々に向けて音楽の雑学を披露する際は「コード進行」について語るのが非常に便利で、「あの名曲には別の名曲のコード進行が使われている!」「この曲の転調のしかたがスゴイ!」といったように、わかりやすい上に刺激的な情報に仕立てることができてしまいます。
制作に興味がない方にとってはエンタメとしてアリかなと思うのですが、これから音楽を作っていこうとする方にとってはコード進行の本来の役割を誤解させ、思い通りの楽曲制作を阻む一因となっております。
今回はそんなコード進行にまつわる3つの誤解について、正しい情報をお伝えいたします。
誤解その1、作曲 = コード進行にメロディを乗せる or メロディにコードを付けるもの
英語圏では作曲者を「コンポーザー」と呼び、「ソングライター」とは明確に区別されています。
ソングライターは言葉の意味通りメロディと詞、つまりは歌を作る人を指しますが、
なぜ作曲者をコンポーザーと呼ぶかというと、作曲とは音の縦軸(ハーモニー)と横軸(進行)が美しくなるようCompose、構築する行為だからです。
ここでいう「美」とは、個人的な感覚に基づきます。
音楽理論は万人に作用する音の効果について記述されたものであって、何が美しいかを定義するものではないことをここに明記しておきます。
すなわちコードとメロディ、どちらを先に作るべきかという問題の答えは「同時」が理想であり
ここを誤解していると、コードとメロディが合っていない、毎回同じような曲しかできない、といった状況に陥りがちです。
とはいえ慣れないうちから同時に考えるのは難しいので制作初心者には
- 定番のコード進行に対してメロディを付ける、または用意したメロディに雰囲気が合っていそうな定番のコード進行をとりあえず付ける
- 改めてコード進行をメロディとの関係がよくなるよう直していく
といった手順での作曲をおすすめします。
ここで一定数の方が抱くであろう「定番コード進行をそのまま使っていいのか?」という疑問に対しては次項にて解説いたします。
誤解その2、コード進行にはオリジナリティが必要
必要ありません。
コード進行を演劇で例えると、照明や大道具といった舞台装置にあたります。
舞台上にソファとテレビが置いてあれば、ここは誰かの部屋だと伝わりますし、それらをハケてベンチと木のセットが出てきたら物語の舞台は屋外へ移ったことが伝わります。このように役者の演技に先行して状況説明をすることもあれば、
笑顔で明るいニュアンスの台詞を喋っている役者にダークな照明を当てることで、内面は暗い心情であることを表現する、といったように作品に立体感を与える役割も持ちます。
これらの舞台装置は表現の幅を広げる上で重要ではありますが、それ自体に作品固有の主張を持たせる必要は全くありません。
コード進行も同じことで、オリジナリティを深く追求しても仕方のない要素です。
何より重要なことはメロディとの関係が良好であることと、ドラマの展開に沿った進行になっていることです。転調などのギミックは必然性を持って挿入されるべきで、無理に使ってしまうと楽曲の聴きどころが不透明になってしまいます。
そして定番コード進行は覚えておいて損はありません。先人たちが作り上げた素晴らしいストーリーテリングの様式を、積極的に体感してみましょう。
メジャーコードは明るい、マイナーコードは暗い
確かにコードを一つだけ鳴らして聴くと、音響学上メジャーコードは明るく、マイナーコードは暗く聞こえます。しかし実際の曲になってメロディが合わさりコードが次々に進行すると、同じようには聞こえません。
この誤解があると、名曲のコード進行を参照したとしても雰囲気をうまく再現することができなくなりますし、メロディの背景としてコードを機能させる際、「ここは暗くしたいからマイナーコードを付けなければならない」と、不必要な拘束を受けてしまいます。
人が曲を聴くとき、コードではなく調性感によって明暗を判断します。メロディ、コード進行共にメジャーキーを強く意識させれば非常に明るく聴こえ、両方マイナーキーの組み合わせにすると非常に暗く聴こえます。片方を逆にすることで「切ない」「自嘲」といったような印象にできますし、さらに調性感を曖昧にして複雑な表現を追求することもできます。
リズムパターンやテンポによっても聴こえ方は変わるので、色々試してみると面白いでしょう。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
コード進行とはそれ単体で楽曲の個性を与奪するものではなく、メロディと並走しより深い表現をするためのものであると分かれば、作曲の自由度が大きく増すことでしょう。
先人たちの積み上げた知識を皆様と共に正しく理解し、より思い通りの音楽表現を目指すことができたら幸いです。
ではまた。
Have a nice journey!
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