今回から3回に渡って、モニターヘッドホンの購入を検討されている方へ向けて重要な情報をシェアいたします。
非常に、非常に、非常に多くの媒体で、SONY社のモニターヘッドホン「MDR-CD900ST(以下CD900ST)」が音楽クリエイター必携のヘッドホンとして紹介されており、筆者の周囲でも「とりあえず」で購入し使用されている方は多いのですが、全員にとって適正なモニターとして機能しているとは、なかなか言い難い状況です。
とはいえ筆者もCD900STを長年使用しておりその性能自体に疑いの余地はないのですが、実は本機の真価を発揮できる環境および用途は限られており、必ずしも全ての方におすすめできる機種という訳ではありません。
誇張抜きで「CD900STを使いこなせる人 = サウンドメイキングの基本をマスターした人」と言ってもよいでしょう。
本記事ではCD900STについて解説した上で、次回以降、「具体的にどのヘッドホンを導入すべきなのか」まで丁寧にお伝えいたします。
是非とも最後までお読みになって頂き、定番と称される機材があなたにとって本当に必要なものかどうか確かめ、後悔のない環境構築をして頂ければと思います。
なぜ、SONY社MDR-CD900STは定番とされているのか
それを明らかにするにはまずCD900STのメリット、デメリットから解説する必要があります。
MDR-CD900STのメリット
・1トラックのみ追って聴く、ノイズを監視するなど特定の要素に注視したモニタリングが得意
・トランジェント、中〜高音域において、極めて微細な変更も認識できる解像度の高さ
・軽量かつ側圧が弱めなので演奏、歌唱を邪魔しない
・ハウジング部が180°回転するのでLのみ、Rのみのモニタリングが即座にできる
・ロングセラーモデルなので低価格な上、故障しても代替品を容易に調達可能な安心感がある
MDR-CD900STのデメリット
・音像全体を俯瞰したモニタリングが苦手(ヘッドホン共通の弱点だがCD900STは特に)
・長時間の作業になると側圧の弱さは逆にストレス
・高解像度ゆえに聴覚が疲労しやすい、特にトランジェントの情報量による疲労が顕著
・低音域の再生能力が低い
改めてこれらの長所短所を眺めると、CD900STは決してスタンダードな出音ではないが、スピーカーの弱点をガッチリ補完する性能であることがわかります。
楽曲制作者またはエンジニアの方の基本的なモニタリングは、装着物による身体的負担がなく全体像の把握に優れたスピーカーに任せ、トラブルシューティングや精度を要する調整において局所的にCD900STを用いるという布陣はまさに理想と言え、生音のレコーディングをする方にとっては、軽い装着感により最大限のパフォーマンスを発揮しつつ、ずば抜けて高い解像度を生かし各テイクに対し的確なジャッジができるCD900STは最適解にふさわしいヘッドホンです。
以上のことから、MDR-CD900STはモニターヘッドホンの定番と呼ばれているのです。
SONY社MDR-CD900STの導入に適した方
・既にスピーカー環境は整っており、作業の一部に精細なモニタリングを必要とする方
・生音のレコーディングをする方
・既にじゅうぶん慣れたモニタリング環境を持っているが、チェック用に複数の再生環境を用意したい方
逆に、上記に当てはまらない方はCD900ST特有のデメリットから導入を控えたほうが無難です。
意外にもCD900STは中〜上級者が使って初めて性能を発揮するモデルであり、間違った方法で使用するとサウンドバランスの崩れ、パンニングの過不足など失敗の原因になる他、耳への過度な負担による客観性の喪失、悪くすると聴覚の低下を引き起こすリスクがあります。
では、あなたにとって最適なヘッドホンは?
CD900ST以外のモニターヘッドホンを必要とする状況は大きく分けて
- ヘッドホンをメインモニターとして、制作の全工程に渡って使用する
- ローエンド特化のモニターとして、ヘッドホンを使用する
の二つが考えられます。
次回からは、それぞれの用途で適切なヘッドホンの解説と、具体的なおすすめ機種の紹介をいたします。お楽しみに!
つづく
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