モニターヘッドホン導入解説編、いよいよ最終回となりました。
今回はすでにスピーカーをお持ちの方でも悩みの尽きない「ローエンドの可視化」をヘッドホンで解決しようとする場合についてお話いたします。是非とも最後までお付き合いいただければ幸いです。
前回までのまとめ
・CD900STの強みはかなり限定的!目的意識を持って導入しよう!
・ヘッドホンをメインモニターとして使用する場合は開放型ヘッドホン推奨!
ローエンドをモニタリングすることの重要性
2ミックスにおいて100Hz以下の低音域は、音圧感、グルーヴ、ジャンル感といった非常に重要な要素を左右しますので、楽曲に合った適切な音量調節とADSRデザインが要求されます。
ローエンドの明瞭なモニタリングは、楽曲の完成度を一つ上のレベルに持っていくために避けて通れません。
ADSR = Attack、Decay、Sustain、Releaseの頭文字を取った用語です。
ざっくり説明すると、上記の4要素を調節することで、同じバスドラムの音でも「ドゥーーン!」なのか「ドッ!」なのか「ンモワ〜」なのかをコントロールすることができます。
シンセのパラメータなどでは電気工学用語からADSRをまとめて「エンベロープ」と表現されることもあります。
しかしながら、低音域はその重要性に反して必要十分なモニタリングが難しいものです。
低音は中高音域に比べてエネルギーが段違いに強く、音響用の設計になっていない部屋では音が多量に反射し明瞭な聴取を妨げるため、たとえスピーカーを用いたとしてもローエンドは満足に可視化できない場合が多いです。
吸音処置は低音域に対して効果が弱いため、解決法としてはスピーカー位置およびリスニングポイントの調整、それでも解決しない場合はリフォームか引っ越しとなりますが、そんなことより時間もお金もかからない最上の方法は、ローエンドに関してはスピーカーでのモニタリングは諦めて「ヘッドホンに頼る」ことです。
この目的を持ってヘッドホンを選択する場合、第一回でCD900STは不向きだ、というお話をさせて頂きました。そして開放型ヘッドホンでもある程度は低音域の聞き取りはできるのですが、ADSRの視認性は開放型よりも密閉型の方が優れていますので、ローエンド調整のためにわざわざ開放型を導入する選択はナンセンスと言えます。
そこで、ローエンドの可視化に特化したヘッドホンについて、ほぼ一択ですが以下におすすめ機種を紹介いたします。
SONY MDR-7520
CD900STに比べてイヤーパッドが完全に耳を覆うよう厚く作られ、側圧も強く、音のエネルギーを逃さない作りになっています。
100Hz以下が不必要な誇張なく明瞭に聞こえつつ、超高音域の再生能力も高いので、トータルバランスを見失うことのない優れたモニターヘッドホンです。
しかし注意すべきことに、スピーカーとは違い空気をほとんど介さず鼓膜に低音が流れ込んでくる点があります。本体重量もありCD900STとは違った要因の聞き疲れリスクがありますので、やはり長時間の連続作業は避けた方が無難です。
「普段はスピーカー + たまに7520」または「普段は開放型 + たまに7520」の併用スタイルを推奨します。
SONY MDR-Z1000(生産終了品)
先述の7520とほぼ同等の製品です。モニタリングする上で重大な差はありませんが、7520の方が低音域がわずかに強いです。
生産終了品ですが、価格面で優っている可能性があるため、一応紹介しておきます。
おわりに
全3回に渡って、「なんとなくでCD900STを買ってしまう前に」という切り口でモニターヘッドホンについてお話して参りました。
モニターヘッドホンは競争優位性が非常に高い製品群でありまして、定番モデルがほぼ決まっており、機種ごとに役割、得意分野を持っております。
ご自身の環境を鑑み、改めて最適なヘッドホンを選ぶ足がかりになった方、また、本記事を読んで「今の自分にCD900STはぴったりだ。」と、改めて確信を持てた方がいらっしゃいましたらこの上なく嬉しく思います。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
ではまた。
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